
「んっ・・・もう朝か・・・」
どうやらかなり寝込んでしまったらしい。すでに部屋は明るい光に包まれていた。
(流石にまだ目が醒めぬか・・・)
三成の左横では曹丕がまだ規則正しい寝息を立てていた。
体中に散る赤い花が目に入り、自然と昨晩のことが思い起こされる。
(まさかあんなにまで乱れるとはな・・・)
曹丕の痴態が脳裏に蘇り思わず体が熱くなりそうになる。
馬鹿がっ!あれは桃の所為ではないか!
曹丕が苦しんでいたというのに何を考えているのだ、俺は!
邪心を追い払おうと頭を振る。
「んっ・・・」
その時、曹丕が身じろぎをした。
「っ・・?!」
邪なことを考えていた所為で知らず体が硬直する。
曹丕の瞼が震え、ゆっくりと薄い色の瞳が現れた。
「・・・・・・三成?」
暫くして曹丕の瞳が三成を捉え、掠れた声で名が呼ばれた。
その瞬間、何とも言えぬ愛しさが体を駆け巡り、自然と頬が緩む。
「すまぬ、起こしたか?」
曹丕の頬に掛かる髪をそっと後ろに梳き流しながら問う。
「いや・・・もう、日が高いな・・」
「ああ、どうやら朝餉には間に合わなかったようだ」
笑顔のまま答える。
「・・・すまぬ」
俯きながら曹丕が小さな声で謝った。
「どうしたのだ?いきなり・・・」
問うと曹丕が体を起こして肘を突いた。
長い髪が白い肌を滑り落ち、肩と褥に美しい弧を描く。
その様に目を奪わながら、三成もつられて体を起こす。
「いや・・・昨晩は、手間を取らせた・・・」
曹丕には非常に珍しく伏し目がちで、低い声で呟くように答えた。
幾分頬も赤いようだ。
あまりにも曹丕らしからぬ可愛らしいその様に三成の頬が更に緩む。
「怒って、いるか・・・?」
曹丕が上目遣いで窺うように見つめた。
「・・・っ!」
(そんな表情は反則なのだよ・・・!)
あまりの幸せに声が出てこない。
「三成・・・やはり、怒っているのだな・・・当たり前、か・・・」
シュン・・・と落ち込む様子を見せる曹丕に三成の我慢にも限界が訪れた。
いきなり曹丕の体を抱きしめると褥に押し倒す。
「三成?!」
驚いて体を硬くする曹丕。
「馬鹿、あれくらいで俺が怒るはずがなかろう?
それに抱かせろと言ったのは俺だぞ?喜びこそすれ怒るなど筋違いも良いところだ!」
一気にまくし立てるとぎゅっと曹丕の体を抱きしめる。
「三成・・・」
曹丕の両手が遠慮がちに三成の背中に回され、
そのまま二人暫くお互いの体温と鼓動を確かめ合う。
二人の鼓動が重なって暫くした頃・・・
「・・・妲己には少しだけ感謝せねばならぬかも知れぬな」
ポツリと三成が零した。
「なに・・・?」
「あんなお前が見られるのならば、またあの桃を貰ってきても・・ぶっ!」
いきなり視界と呼吸が塞がれた。
どうやら曹丕が枕で塞いだらしい。
「いきなり何をするのだ!」
「お前が変な事を言おうとするからに決まっていよう」
「変な事?止めても聞き入れずに変なものを食べたのはどこの皇子だったか?」
「なっ・・・だから、謝って・・・お前は、その変な物をまた食べさせようというのか?」
「あ・・・。し、しかし害も無かったことだし、良かったではないか。
それに・・・俺のおかげでちゃんと治まったであろう?」
顔を近づけニヤリと口端を上げて最後の言葉を囁く。
「なっ・・・」
途端に曹丕の頬に朱が差した。
二の句が継げず唇を噛みしめる曹丕。
「ん?どうした?」
追い打ちを掛けるように畳みかける。
「う・・・五月蠅い!私はもう少し寝る・・・!」

そう叫ぶと曹丕は三成に背中を向けて横になってしまった。
(ふっ・・・全く、可愛い奴め・・・)
なるべく顔に出さぬように努めても、やはり頬が緩んでしまう。
「悪かった、機嫌を直せ、曹丕」
曹丕の背に流れる髪を梳きながら素直に謝る。
「別に何も怒ってなどおらぬ・・・っ!触るなっ!」
背骨に沿って腰まで指を這わすと曹丕が身じろいだ。
「こっちを向くまでやめぬぞ?」
もう一度、今度は腰から背骨に沿って指を這わす。
「・・っ!やめろ、と・・・っ!」
三成の手を取って曹丕が振り向いた。
「卑怯だぞ、三成・・・!」
「違うな、策略家なのだよ、俺は」
ニヤリと笑うと三成は曹丕の手を掴み返し、褥に押しつけて唇を塞いだ。
「んっ・・・なっ、みつなっ・・ふっ、ぅ・・っ」
文句を口づけで封じる。
「んっ・・ふっ・・はっ・・・やめっ・・んっ・・!」
最後に音を立てて唇を吸い上げたあと、やっと体を起こす。
「はぁ・・・お前は・・っ!昨夜散々・・・」
「昨晩は昨晩。今朝は今朝だ。それに俺はたったの二回だぞ?」
「なっ・・・」
全く悪気も無い様子で微笑まれて曹丕は絶句するしかなかった。
---------------------その日は一日中、曹丕と三成の姿を見たものは、誰もいなかったらしい。
【了】