■部屋着(三丕/挿絵1枚/R-15)

「三成、夕餉を共にせぬか?」

一日の執務を終え、曹丕が三成の居室を訪れたのは、
西日が水平線に届く頃で、ちょうど三成も書状を書き終え、筆を置いた直後だった。

「曹丕・・・お前・・・その格好は何だ!?」

開け放った障子の側に立つ曹丕の姿を目にした瞬間、
三成は盛大に眉間に皺を寄せた。

「・・・?何かおかしいか?」
「いや、おかしくはない、が・・・!」

そう、全くおかしなところは無いのだ。
執務も終わり、戦の予定も無い。
それ故曹丕はマントも帷子も外し、白を基調とした膝丈の上着に
青紫の下履きというくつろいだ格好をしていただけなのだ。

「お前・・・まさかその格好で此処まで来たのか!?」

ハッとしたように三成が問う。

「当たり前だ。」

何をおかしなことを、といぶかしげに曹丕が答えると、
三成は慌てた様子でまくし立てた。

「そ、それはそうだが!此処に来るまでに誰かに会ったりは・・・?」
「ああ、そこの曲がり角で浅井夫婦に会ったぞ。お前に宜しくと云っていたな。
 そう言えば何も言わぬのに、何故私が此処に来ると判ったのであろうな?」

ふむ・・・と考え込む様子の曹丕を尻目に三成は安堵していた。

「浅井夫婦か・・・あの二人ならば安心だ。」

曹丕に聞こえるか聞こえないかの小声で呟く。

「何が安心なのだ?」
「何でもない!こちらの話だ!それより他には!?」

いつの間にやら三成は曹丕の目の前に立ち、
吐息も掛かりそうなほど顔を近づけている。
曹丕にすれば、何か気に触ることをしたわけでもないのに、
まるで詰問されているような心持ちだった。

「その二人だけだが?一体何だと云うのだ、三成よ。」

訳がわからない、という様子で少々声を荒げ気味に云う曹丕に、
三成は仕方なく言葉を絞り出した。

「その・・・お前のその姿だが・・・。その服がだな・・・。」

三成にしては歯切れが悪い。

「この格好が何なのだ?はっきり云え、三成。」

三成は、しばらく腕を組んだり、横や上を向いたり落ち着かない様子だったが、
咳払いを一つすると、いつものように真っ直ぐに曹丕の目を見て云った。

「その服は、女物のようで可愛らし過ぎるのだよっ!」
「・・・は?」

あまりにも唐突な言葉に、さしもの曹丕も言葉を失った。

「女物・・・?可愛い・・・?」

確認するように繰り返す。

「そうだ!その裾の部分が広がってひらひらしているのが特に、だ!」

叫ぶように言い放つ三成にますます曹丕の眉間に皺が寄る。

「訳がわからんぞ、三成。」

ため息混じりに曹丕が答えると、三成は拳を強く握りしめ、絶叫した。

「だいたいお前は自分の容姿について無自覚過ぎるのだよ!」

三成のあまりの必死さに曹丕は目を瞬かせつつも、
その意味を解しようしたが、どうにも解せない。

「三成、一体何だと云うのだ?話がまるで見えん。
 だいたいこれがいくらひらひらしていようが、下を履いているのだ。何も問題などなかろう?」

曹丕の言い分はもっともだ。

「そ、それはそうだが!しかし、履いてない姿を想像してみろ!それを他の奴に・・・!あああ・・・!恐ろしいのだよ!」

真面目な顔で訳のわからないことを叫びつつ、頭を抱えている三成を見て、
曹丕の眉間にはまた一つ皺が刻まれた。

「・・・三成、夕餉は私一人で行くことにする。邪魔したな。」

そう言うと曹丕は踵を返した。

「待て!曹丕!!!その格好でうろつくな!!!」

叫ぶと同時に三成は曹丕の腕を掴んで引いた。
咄嗟のことで加減が出来ず、思い切り強く引っ張った為に、
曹丕がよろめき、三成が後ろから抱きかかえるような格好で倒れ、
そのまま二人して畳に尻餅をついてしまった。

「・・・つぅ・・・!お前は、いきなり加減も無しに!」
「く・・・すまん。怪我は無いか?」

慌てた様子で曹丕の体を確認する。

「これぐらいで怪我などする私ではない。」
「そうか・・・済まなかったな、曹丕。・・・俺が悪かった。」

ほっと一息ついた後、珍しく肩を落としてうなだれる三成の様子を見て、
曹丕は盛大に一つ溜息をついた。

「ふん・・・仕方があるまい。夕餉には着替えて行こう。」
「曹丕?!」

驚いてぱっと顔を上げた三成と視線が交差する。

「この格好が駄目なのであろう?お前がそんなにも嫌がるのであれば、仕方があるまい。」

苦笑しつつ云う曹丕に三成が遠慮がちに口を開いた。

「いや・・・その服が駄目と云うわけでは・・・俺としては、むしろ、す、好きなのだが・・・」
「・・・何?どういうことだ?」

歯切れの悪い物言いの三成に、はっきり言え、と曹丕が詰め寄る。
俯いて暫く逡巡したのち、三成は意を決したように顔を上げた。

「俺は・・・その上だけの姿が好きなのだよ!」
「・・・!?」

真っ赤になって叫ぶ三成に、曹丕は思わず絶句した。
そして今までのやりとりを頭の中で反芻してみる。

「なるほど・・・そういうことか。全くお前という奴は・・・。」

短い沈黙の後、やっと合点がいったのであろう、
曹丕は苦笑を浮かべ溜息を吐きつつ、三成を見つめた。
見つめられた三成は、急に慌てた様子で視線を外し、そっぽを向いた。
顔は相変わらず赤い。

「・・・そ、そういうことだ!だから俺の前以外では、その・・・」
「判った。お前にしか見せぬようにしよう。」

三成が言い終える前に曹丕から発せられた言葉が耳に届いた瞬間、
三成は目を丸くして曹丕に向き直った。

「曹丕・・・?良いの、か・・・?」

先ほどとは打って変わって遠慮がちに見つめ返してくる。

「ふん、良いも悪いもなかろう。お前に癇癪を起こされるよりはましだ。」

いつものように顎を少し上げ、皮肉めいた笑みを浮かべつつ、
三成を見下ろすように云う曹丕の様子を見た瞬間、三成の中で何かが弾けた。

「曹丕・・・!」

思わず口をついて出たのは目の前の男の名前。
体の中で弾けた衝動に任せて、手を伸ばし、強く抱きしめ、両手で頬を包み込み、唇を貪る。
抱きしめた瞬間、曹丕は一瞬驚いて体を堅くしたが、
口付けが深くなるにつれて力が抜け、体を三成に預けてきた。
その重みと温かさに三成も熱くなる。
夕日に照らされる室内には、重なった二人の濃い影が白壁に黒く焼き付き、
絡み合う舌の紡ぎ出す淫猥な音と吐息、衣擦れが聞こえるのみであった。

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「あっ・・・三成!もう、やめ・・・よ・・・。」

裾から忍び込ませようとした三成の左手をぎゅっと掴み、
曹丕が切なげに小さく漏らした。
下履きはとうの昔に三成によって脱がされ、畳にうち捨てられていた。
三成の右手は先刻より服の上から曹丕自身を優しく撫で上げている。
根本の方からくびれ付近までを往復する度に、
独特のするりとした生地に先端を軽く触れるか触れない程度に擦られ、
もどかしい感覚に苛まれていた。

「やめても良いのか?こんな状態で?」

耳元で囁くように問いつつ、布の上から指で形をなぞるように撫で上げると
曹丕がビクリと肩を震わせた。

「うっ・・・ん・・・!」
「お前の言葉と躯、どちらが真実なのであろうな?曹丕。」

ちらりと覗く耳朶に舌を這わせながら、布で先端を包み込むように揉みしだく。

「はっ・・・あっ・・・やめっ・・・!」
「お前がやめろと言えば言うほど、此処はもっと欲しいと言っているようだが?」

その言葉通り、曹丕自身からは透明な滴が止めどなく溢れ、
布はもうびっしょりであった。

「馬、鹿・・・!このっ・・・!ぅああ!」

いきなり強く握られて激しく扱かれ、思わず高い声が上がる。

「はっ・・・み、つなり・・・あっあっあっ・・・!」
「やはり躯の方が本当のことを言ってるようだな、曹丕?」
「う・・・るさ・・・っ!あっ・・・んっ・・・!」

強く扱くのをやめ、再び布の上から優しくなぞるように撫であげる。
何度も何度も優しく焦らすような三成のその動きに
どうしようもない痺れと物足りなさが襲い、強い刺激を求めて、曹丕の腰が自然に浮く。

「・・・ん・・・はぁ・・・三成・・・。」

緩慢な刺激に耐えきれず、曹丕は三成の右手を強く掴んで振り向き、
欲情に濡れた薄青の瞳で薄茶の瞳をじっと見つめた。

「どうしたのだ、曹丕?」

意地悪く問うと、曹丕は耐えるように睫を震わせた。

「曹丕?」

顔を覗き込もうとすると、いきなり吸い付くような口付け。
驚いて三成の動きが止まると同時に曹丕は掴んだ三成の右手を服の裾から差し入れた。

「そう・・・んっ!」

唇が離れた・・・と思った瞬間、また今度は噛み付くような口付け。

(全く、可愛らしくも大胆な誘い方をしてくれる---)

内心苦笑しつつも積極的に求められるのが三成には心底嬉しくて堪らない。

(期待には応えねばな。)

空いた左手で曹丕の顎を掴んで固定し、舌を差し入れると、
曹丕の方も深く絡めてきた。

曹丕の舌を味わいつつ、裾から差し入れられた右手で
今度は直に曹丕自身をぎゅっと掴む。

「ぅんっ・・・!」

びくりと曹丕の躯が跳ねた。
そのまま右手をゆっくりと上下させながら、親指の腹で先端を擦り続ける。

「んんっ・・・ふ・・・ん・・・」

塞がれた曹丕の唇からは、くぐもり、鼻に掛かった声が上がり続けていたが、
右手の動きを激しくすると、酸素を求めて唇が離れた。

「あっ、あっ、はっ・・・あっ・・・みつ、な、り・・・!」

自由になった曹丕の唇から、次々と紡ぎ出される色を纏った吐息混じりの音は
通常よりも高く、堪らなく淫らで、三成を煽る。
ああ、この声は自分にしか聞けないのだ・・・そう思うと、
何とも言えない甘い想いが込み上げ、三成の全身は熱く痺れた。

「曹丕・・・。」

耳朶に軽く歯を立て舐め上げつつ、吐息に近い声を吹き込みながら、
高みへ向かわせるべく、思う様曹丕自身を強く扱き上げ始める。

「ふ・・・ぁああああっ!みつ・・・っ・・・あぁぁぁっ!」

左手は三成の左手を、右手は袴を関節が白くなるほどぎゅっと握り締め、
引き攣るように体を硬直させた後、曹丕は三成の手の中に白濁を吐きだした。

あとには荒い吐息が二つ。
そして直ぐに舌の絡み合う音が響いた。

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