夜半、独り起き出した曹丕は、回廊に佇み、
青白く照らされた中庭を、見るとも無しに眺めていた。
中央に作られた池には、蓮が大輪の花を咲かせていた。
「眠れないのか?」
傍にあった温もりの消失に気づいた三成が起き出してきて、背後から声を掛けた。
その問いには答えず、僅かに顔を向けただけで曹丕はまた中庭に視線を戻した。
「こんな世界でも花は咲くのだな。」
いつの間にか横に並んだ三成が呟く。
「そうでなくては困る。」
「・・・何故だ?」
「花も咲かぬような世界を統べても、つまらぬからな。」
初めて三成の目を見た曹丕が口端を上げた。
「なるほど。道理だな。」
つられて三成の口元も綻ぶ。
その時、湖面を揺らしながら風が吹きつけ、二人の髪を乱した。
「良い風だな。」
「ああ。」
吹き抜ける心地よい風に曹丕が目を細める。
「・・・眠れそうか?」
風が収まると、三成が問うた。
「さて・・・」
曹丕は庭を見たままだ。
「ならば、眠れるまで少し付き合え。」
「・・・何だ?」
曹丕が振り向き、訝しげに三成を見た。
「昼間の決着がまだ付いていないだろう?これだけの月光だ。見えぬ事もあるまい。」
そう言って三成が部屋にある盤を指さした。
「フッ・・・そうだな。眠れぬのならいっそそれを愉しむのもまた一興か。」
三成の示す先を見やり、曹丕が微笑う。

「ならば、戻るぞ。夜は長いとはいえ、お前との勝負は時間が掛かりそうだからな。」
そういって、三成が先に歩き出す。
「眠気が襲う前に決着が付くのでないか?」
私が勝つのは言わずと知れたことだが、と付け加えて曹丕の口端が上がった。
「ほぅ、言ったな。俺の采配を存分に見せようではないか。」
三成の片眉が上がる。
「せいぜい愉しませてもらおうか。」
どちらに軍配が上がったのかは月光のみが知る・・・。