三成がその日、執務を追えて曹丕の私室を訪問できたのは月も中天にさしかかろうとした頃であった。
「曹丕、入るぞ。」
いつものように声を掛けて、返事を待たずに足を踏み入れる。
隅に置かれた灯明の光が部屋全体を優しく包んでいた。
柔らかい柿色に照らされた寝台を見やると、横になった曹丕の姿が三成の目に入った。
近づいてみると瞳は閉じられ、規則的な寝息が三成の耳に届いた。
どうやら書簡を読みながら、寝込んでしまったらしい。
「曹丕・・・?」

小さく呼んで寝台に膝をついてその顔を覗き込む。
いつも寄せられている眉間の皺はなく、唇も半開きで数段幼く見えた。
----------可愛いものだな。
普段からこうしていれば少しは印象が違うものを・・・
指の背で曹丕の頬を優しく撫でながら、その表情を見つめていると
知らず知らずのうちに三成の口元が綻んでいく。
いや、この表情(かお)は俺だけのものだ。
他の輩になど見せられんな。
そんなことを思いながら暫く曹丕の頬を撫でていたが、段々とそれだけでは満足できなくなる。
もっと触れたい。
あの瞳で俺を見て欲しい。
あの声で俺を呼んで欲しい。
「曹丕・・・。」
衝動に任せて、曹丕の頬に唇を寄せる。
「んっ・・・」
何度も繰り返していると、曹丕が身じろいだ。
まつげが微かに震えたあと瞼がゆっくりと上がり、覗いた蒼色が揺らめく。
暫くすると焦点が結ばれ、三成の瞳を捉えた。
「俺を待たずに眠ってしまうとは、お仕置きだな、曹丕。」
台詞とは裏腹な柔らかい表情。
「・・・お前が遅いのが悪い。」
少し掠れた声。
だがこちらも眉間に皺はなく、口元には笑みさえも浮かんでいる。
「フン。お前の父親に頼まれた仕事だ。文句なら父親に言え。」
曹丕の体を仰向けに組み敷きながら言う。
「ほぅ?父の信頼を無くしても良い、と?」
組み敷かれた曹丕は、垂れ落ちる三成の髪の毛を右手で梳き上げながら笑う。
「俺はお前の父親に信頼して貰おうなどとは思っておらぬ。
俺が欲しいのは・・・お前ただひとりなのだからな。」
予想だにしなかった真摯な眼差しに心臓がどくりと跳ね、思わず曹丕の手が止まる。
この男は、いつもそうだ。
やにわに私の心を奪っていく。
「曹丕・・・?」
意図せず固まってしまった曹丕を三成が訝しげに見つめる。
「ふっ・・・。お前と居ると退屈せんな。」
曹丕の両手がするりと伸び、三成の首に巻き付き引いた。
突然のことに三成は目を見開いた。
構わず曹丕は首を伸ばして、三成に口づける。
柔らかく包み込むだけで離れたそれを、途中で三成が引き留めた。
曹丕の頭を抱いて支え、唇全体を塞ぐ。
何度も角度を変えて繰り返しながら押しつけ、
曹丕の頭が褥に沈むと項(うなじ)に手を入れて、喉を反らせた。
「んぅっ・・・ふっ・・・ん・・」
喉が反ったことで自然に開いた曹丕の唇に、
己の舌を侵入させて奥まで犯す。
口端から零れ落ちる唾液にも構わず、何度も舌先を摺り合わせ、絡ませ合う。
繰り返される行為と漏れる水音に、体の芯から熱が込み上げ止められなくなる。
「曹丕・・・」
「はっ・・・三、成・・っ」
口づけの合間に吐息混じりに呼び合う。
そんなことすらも更に互いの熱を増幅させてしまう。
あとはただ、熱が引くまで----------------